金森弁護士の法律相談所
10年勤めた会社から独立する場合、退職後に競業行為で訴えられますか?
私はブライダル事業の会社で10年間勤めてきましたが、独立を考えています。しかし今の会社には退職後に競業行為をしてはいけないという規定があります。独立後に今の会社から訴えられるようなことはあるのでしょうか?
読者の中には、これまで長年の仕事で培ってきた人脈やノウハウを駆使して、自分で事業を興したいという若々しい考え方をお持ちの方もおられるかも知れません。わたしたち弁護士の場合定年がないのですが、仕事を辞めた途端に惚けるので、惚け防止に仕事をすると言っている人もいます。何時までも現役でいたいという気持ちは敬服いたします。
他方、これまで勤めていた会社の側からみれば、これまで従業員として勤務していた人が、会社の情報やノウハウを持ったまま同種の事業を興すと、企業秘密が漏洩することになります。また、退職者が事業を興し、同じ市場に新規参入してくると、ライバルが出現することになります。従業員は、雇用契約に基づいて秘密保持義務がありますので、退職後これまでの仕事と同じ仕事を自分ですることが、秘密保持義務との関係で許されるのかが問題となります。
この点、雇用契約上の秘密保持義務は、退職して雇用契約が終了することにより、消滅します。また、憲法22条1項では、職業選択の自由が定められていて、退職後どのような仕事をするかは自由となっております。したがって、特に就業規則や退職時の合意で競業行為をしないという規定がない限り、自由に仕事をすることができます。
では、就業規則や退職時の合意で競業行為をしないという合意がある場合、それは有効なのでしょうか。
たしかに、企業の側から見れば、これまで培った内部的なノウハウや企業秘密を使って事業をするのはアンフェアにも見えますし、ライバルが出現することで会社に不利になることは必至です。したがって、退職するに際し、競業行為をしないように約束したい気持ちも理解でき、尊重できます。他方、前述のように退職者には憲法上の権利として自由に仕事をする権利があり、それを不当に制限されるようなことがあってはなりません。
そこで、両者の調整の観点から、(1)退職者の在職中の地位(2)使用者の固有の秘密・ノウハウの保護を目的とすること(3)競業制限の対象職種・期間・地域が不当な制約にならないこと(4)代償措置がとられていることの要素を考慮して、このような就業規則や退職時の合意が有効か否かが判断されることになります。
たとえば、契約終了後2年間の競業避止義務特約を締結していた従業員が、退職後この特約に反して競業関係にある会社の取締役に就任した事案について、この特約は有効であると判断されております。(奈良地判昭和45.10.23)
また、退職後3年間の競業避止義務が就業規則において定められている場合に、退職した学習塾の講師が別の学習塾を設立し、同僚を引き抜き、在職中に入手した情報を元に生徒に書面を送付して、新設した学習塾への入会を勧誘した事案について、この就業規則が有効であると判断されております。(東京地判平成2.4.17)
もちろん、期間だけで一律に判断することはできないのですが、一つの目安として、2~3年の期間くらいであれば競業避止義務を定める就業規則や退職時の合意も有効と判断される可能性が高いといえると思います。また、在職中の地位が上の方であればあるほど、内部的なノウハウや企業秘密に接する可能性が高い訳ですから、その分競業が禁止されやすいという関係に立つと考えられます。
そして、このような就業規則や退職時の合意が有効となる場合、これに反して競業行為をしようとすると、会社の方から、債務不履行責任を追及され、競業行為の差し止め請求、あるいは損害賠償請求といった法的措置をとられる可能性があるので、注意が必要です。

金森将也
つばさ総合法律事務所所長
上智大学法学部法律学科在学中に司法試験合格し、2003年4月、25歳の若さで「つばさ総合法律事務所」を設立。M&Aを含む企業法務案件を多く手がける。
出演経歴:日本テレビ「行列の出来る法律相談所」若手弁護士特集・メ~テレ「どですか」にレギュラー出演。
ご予約・金額等詳細については、052-971-7555まで
HPはこちら:http://www.tsubasa-act.com/





















